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「今日はほんの御挨拶に上つたので、いづれ又ゆつくり――」
「だいいち、あすこの小倉組の親方といふのがね、うちの店へもたまに買物に来るんだが、鬼倉といふ綽名がある位でね、見たところ痩せつぽちのさう強さうもない奴なんだけどね、すごいんださうだ。――こないだも郵便局で見た人があるんださうだが、配下の者が何かしつこく不服を云つたら、いきなりかう、二本の指でね――」
房一は手足を洗ふと、簡単に診察着をひつかけて表へ廻つた。
「はア」
房一は目を上げて何か訊きたさうにした。それを押へるやうに、
根津はだまって答えなかった。その翌日、彼は城外で戦死した。
「いや」
「えらい昔話が又ぶり返したんだな」
一
「それからね」
房一はその玄関土間に足を踏み入れて、
「私共は、これも(練吉を指して)この町の医者です。実は火事だといふから駆けつけたので。聞けば、演習だといふことですが、それなら前もつて町役場なり駐在所なりへ通知があるべき筈だと思ひますが、それはなさつたでせうな」